DeFiデリバティブとは
デリバティブとは、成熟した金融システムの重要な要素から派生した商品であり、これら成熟した金融システムとは一般的に、株式や債券、為替、金利といった証券、通貨売買などを指します。
たとえばリーマンショックにより知名度が上がったCDO (Collateralized Debt Obligation:債務担保証券) は、住宅ローンを証券化して他の複数の証券と一緒にまとめ、新たな債権を作り出したためデリバティブ商品といえます。
その他オプション取引や先物取引、スワップ取引も代表的なデリバティブです。保険もある種、デリバティブの1つと考えられています。
DeFi (Decentralized Finance:分散型金融) におけるデリバティブは、そういったデリバティブ商品および取引をスマートコントラクト技術を用いて誕生させたものです。DeFiとはブロックチェーンで構築された、金融サービスやエコシステムといったアプリケーションを指します。
DeFiデリバティブには分散型予測市場、分散型マージンレンディング、分散型保険などさまざまなプロジェクトがあります。
DeFiデリバティブ取引
DeFiデリバティブ取引はむずかしいと感じる方もいるかもしれません。DeFiデリバティブ取引の理解を深めるため、ここからはデリバティブ取引のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
デリバティブはいろいろな分野で使用され、主に価格変動から自分たちの資産を守るためのリスクヘッジを目的として使われます。もし資産を固定価格で買う契約を結べば、今後価格が変動した場合でもリスクを減らすことが可能です。
2008年の金融危機より前にウォーレン・バフェット氏が代表をつとめるバークシャー・ハサウェイ社では、S&P 500や日経平均などの4つの株式指数におけるプットオプションの販売をはじめました。プットオプションとは、特定の日時にあらかじめ決められた価格で売る権利のことです。
株価は金融危機によって大暴落したものの、バークシャー・ハサウェイ社でプットオプションを買った投資家は決められた価格で株を売ったため大きな利益を得ました。
なお同社代表のバフェット氏はアメリカの有名な投資家としても知られ、2002年にデリバティブを「金融の大量破壊兵器」[1] Berkshire’s Corporate Performance 2002: Berkshire’s Corporate Performance vs. the S&P 500, 2008年2月28日配信と発言していたこともあり疑問視する声もありました。
また航空ビジネスでもデリバティブは活用されています。サウスウエスト航空はヘッジプログラムを用い、ジェット燃料を大変低いレートで確保しました。
他にも、気象による被害の軽減を目的とした天候デリバティブなどがあります。
デメリット
価格変動に左右されるトレード戦略は、仮想通貨におけるデリバティブの規制がないことと関連し、リスクも伴います。
仮想通貨デリバティブでトレーダーにまつわる最大のリスクは、ボラティリティです。ボラティリティとは価格変動の幅を指します。仮想通貨の価格は目まぐるしく変動するため、デリバティブを用いると損失がふくらむリスクもあります。
仮想通貨市場は浮き沈みが激しく、トレードに慣れていない初心者が相場の動きを予測するのは困難です。予想とは違う値動きをし、デリバティブ取引で大きな損失が生じる可能性もあるため、取引プラットフォームを利用する際は、機能をしっかり確認するなどして十分な注意を払いましょう。
またデリバティブの規制にも注意が必要です。世界各国の規制当局はデリバティブ取引や仮想通貨そのものに慎重な動きを見せています。
たとえば米証券取引委員会 (SEC) は、さまざまな取引を監視しています。ビットコインで調達したスワップを違法で提供したとして2018年に証券ディーラーを告訴[2] COINPOST: ビットコイン基軸の証券スワップが違法か|米SECとCFTCが提訴, 2018年9月28日配信 Financial Conduct Authority (FCA): FCA bans the sale of crypto-derivatives to retail consumers, 2020年10月6日配信しました。イギリスでは金融行動監視機構 (FCA) が消費者保護を優先し、2021年1月6日から個人投資家への仮想通貨デリバティブの提供を禁止しています[3]
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日本では金融庁が仮想通貨デリバティブ取引を法規制の対象[4] 金融庁 仮想通貨交換業等に関する研究会 報告書: 4.仮想通貨デリバティブ取引等への対応, 2018年12月21日発行にする見解を見せているなど、今後もデリバティブにおける各国の動きから目を離せません。
DeFiデリバティブの仕組み
DeFiデリバティブの仕組みは少し複雑で、理解しにくい部分があるかもしれません。
ここでは分散型予測市場と分散型マージンレンディング、分散型保険の各プロジェクトごとにDeFiデリバティブのしくみを解説します。
分散型予測市場
予測市場とは、将来のある出来事を予測する市場のことです。予測市場で投資を行う際は、将来の出来事の結果を賭けて取引します。
DeFiの予測市場はオープンな市場で誰でも参加できます。スマートコントラクトを実装しているため、支払いや分配の自動化が可能です。透明性が高く、効率のよい市場を作り出せます。
DeFiの分散型予測市場における代表的なプロジェクトの1つが、Augur (オーガー) です。分散型予測市場ではデータを提供する「オラクル」を使い、市場を運営します。しかし不正をする可能性があるオラクルを用いた場合、予測市場は機能しません。そのためAugurはオラクルの分散を試みており、オラクルの主体が悪意のあるレポートをしないように、トークンのステークを使用して設計しています。
またGnosis (ノーシス) は分散型予測市場のミドルウェア・プロトコルで、Augurと似ています。GnosisがAugurと異なるのは、外部のオラクルシステムを活用して結果を判断する点です。Augurよりも結果を早く出し、すばやく資金を回転できることが特徴です。
これらプロジェクトは技術的側面が強く、一般ユーザーには親しみのない事例のようですが、2018年に日本国内ではソーシャルメディア大手LINEが独自のブロックチェーン上で稼働する未来予想プラットフォーム4CASTを発表しています。
しかしLINEは2019年8月26日を持って4CASTのサービスの提供を終了[5] LINE お知らせ: 4CASTサービス終了のお知らせ, 2019年8月26日配信しており、大手企業でもDeFiアプリケーションなどの未開拓分野を運営することが難しいことを示す事例となりました。
分散型マージンレンディング
マージンレンディングとは、端的にいえばレバレッジ取引のことです。信用取引や証拠金取引、マージントレードなども含まれます。
分散的なスマートコントラクトで稼働しているプロジェクトの1つが、dYdX (ディーワイディーエックス) です。dYdXでは、イーサリアム (ETH) のロングおよびショートのレバレッジトークンを購入できます。現物取引やマージン取引、無期限先物取引などを提供しており、将来さらにデリバティブ取引が増える可能性もあるでしょう。
ただし取扱通貨は主にイーサリアム (ETH) とダイ (DAI) 、米ドルなど、対応していない通貨がほとんどです。
DeFiレンディングプラットフォームのbZx (ビージーエックス) でも、レバレッジのロングトークンとショートトークンを購入できます。さらに一般的なローン取引でも利益を獲得可能です。
なおbZxはシステムの穴をつかれ、2020年2月にフラッシュ・ローンを利用した被害を受けました。被害額は100万ドルにもおよぶといわれています。被害を受けた後はアップデートなどで安全性を高めているようですが、DeFiの分散型マージンレンディングでは欠点をつかれるおそれもあるため、セキュリティ対策がきちんと行われているかなどを確認した上で利用しましょう。
分散型保険
分散型保険のプロジェクトはCDx (シーディーエックス) が挙げられます。CDS (債務不履行時のリスクを対象にした保険) の実現にスマートコントラクトを利用したプロジェクトです。
CDxを活用すれば、第三者を介さないオープンなマーケットでCDSを発行したり、流通したりできます。ただしCDxはあまり動きが見られず、将来どのように発展するか不明確な部分が多いのが現状です。スマートコントラクトを使ったCDxのようなプロジェクトが今後増えていくことに期待しましょう。
分散型保険プロジェクトは他にも、Nexus Mutual (ネクサスミューチュアル) が登場しています。イーサリアム (ETH) のブロックチェーンを用いて、分散型システムを通じて保険請求の承認や拒否を決めるしくみを構築しました。なおNexus Mutualは、DeFiプロジェクトのバグやハッキングなどで被害にあった際、補償を受けられる制度を設けています。
DeFiデリバティブの始め方
DeFiデリバティブは伝統的な取引所、認可された仮想通貨取引所ではじめられます。
伝統的な取引所におけるビットコイン先物は世界最大級の先物取引所、CME (シカゴ・マーカンタイル取引所) で提供されています。なおCBOE (シカゴ・オプション取引所) では2019年にビットコイン先物の提供を停止[6] REUTERS: Cboe puts the brakes on bitcoin futures, 2019年3月16日配信 Bloomberg: Cboe CEO Expects to Build Out Crypto Offerings as Demand Rises, 2021年3月24日参照しましたが、最近になってCEOのエド・ティリー氏はBloombergのインタビューに対し、再度ビットコイン先物の再上場を検討している旨を明らかにしています[7]
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またナスダックもビットコイン先物の提供を検討しています。しかしリスク管理に対するインフラの確保、既存のビットコイン先物との差別化がネックとなり慎重に検討しているようです。
機関投資家に向けた取引所でもデリバティブを提供する動きがあります。アメリカの仮想通貨デリバティブの取引プロバイダーであるLedgerX (レジャーエックス) はCFTC (米商品先物取引委員会) からライセンスを取得し、スワップやオプションの取引をはじめました。
さらに機関投資家向けの仮想通貨取引所のBakkt (バックト) でも、ビットコイン先物の取引をスタートしています。DeFiデリバティブはさらなる発展により、サービスを提供する取引所が増える可能性もあるでしょう。
DeFiデリバティブのまとめ
DeFiデリバティブはスマートコントラクトを用いた、新たな金融商品です。
分散型予測市場や分散型マージンレンディング、分散型保険といった、さまざまなプロジェクトが展開されています。価格変動や天候などの予測にも活用され、リスクヘッジに役立っています。
一方でボラティリティによるリスクもあるため注意しなければなりません。デリバティブの規制にも注意しましょう。
伝統的な取引所の他、一部の仮想通貨取引所でもデリバティブの取引を行え、機関投資家向けの取引所でもビットコイン先物取引をはじめています。
DeFiは今後発展が予想され、期待が高まっている分野ともいえます。DeFiデリバティブの理解を本記事で深め、今後のDeFiの動きに注目していきましょう。