ライデンネットワークとは
イーサリアムでは2020年からのDeFiブームにより、ネットワークが混雑して取引の遅延や取引手数料が高騰する「スケーラビリティ問題」が発生しています。この問題を解決するソリューションのひとつが「ライデンネットワーク」で、イーサリアムをスケールすることを目的としたオフチェーンスケーリング技術です。
これは、イーサリアムのメインチェーン外にあるライデンネットワーク上に、取引を行う者同士がやりとりできる取引経路 (ペイメントチャネル) を作成し、そのチャネル上で取引を行うというもの。直接のチャネルを持たない人に送金するときには、複数のチャネルを経由することで送金を行います。
ライデンネットワーク上での取引は瞬時に完了し、ブロックの生成を待つ必要がありません。また、ライデンネットワーク上の取引はイーサリアムブロックチェーンに記録されないため、取引手数料の低下を実現できるだけでなく、プライバシーの保護も期待できます。
ライデンネットワークはライトニングネットワークと名称やしくみがよく似ていますが、ライトニングネットワークがサポートするのはビットコインであるのに対し、ライデンネットワークはイーサリアムとイーサリアム上で発行されたERC-20トークンをサポートします。
ちなみに、イーサリアムをスケールできる技術は、ライデンネットワークだけではありません。別個のブロックチェーンで取引を行う「サイドチェーン」や、イーサリアム上に多数の層から成る小規模なブロックチェーンを作成する「Plasma (プラズマ) 」なども開発されています。
ライデンネットワークの仕組み
ライデンネットワークを利用するときは、最初に取引を行う二者間専用の送金経路「ペイメントチャネル」を作成します。ペイメントチャネルを作成するときに仮想通貨をデポジットするのですが、そのデポジットした金額を超えない限り、参加者間では取引を何回でも行うことができます。
たとえば、AさんとBさんが50DAIをデポジットしたペイメントチャネルを作成するとしましょう。この場合、AさんがBさんに30DAIを送付したり、BさんがAさんに10DAI送付したりというように、50DAIの範囲内でお互いが送金できます。このペイメントチャネルでの取引は瞬時に完了し、かつ手数料はかかりません。
手数料が発生するのはチャネルを開いたり閉じたりするタイミングで、これはイーサリアムブロックチェーンでトランザクションを作成するためです。
チャネルで直接接続されていない相手に送金したいときは、複数のチャネルを経由して相手に送金をするしくみです。チャネルを経由するときは、経由したノード分の手数料が発生しますが、その手数料率は非常に低くなっています。
ライデンネットワークで行われた取引の内容は公開されません。つまり、プライバシーを保護する効果もあります。
ライデンネットワークのメリット
取引の高速化
ライデンネットワークを利用するメリットは、取引が瞬時に完了することです。ライデンネットワークはブロックチェーンネットワークではないため、取引を完了させるためにブロックの生成を待つ必要がありません。
取引手数料の低下
ライデンネットワークを利用するメリットの2つ目は、取引手数料が低額なことです。
イーサリアムブロックチェーンでの取引は、ネットワークの混雑度に応じて手数料も高額になるしくみです。2021年6月18日現在の平均トランザクション手数料は約500円ですが、同年5月には最も高いときで7,000円を超えていた時期もあります。[1] Etherscan, Average Transaction Fee Chart, 2021年6月18日参照
ライデンネットワークの手数料は、イーサリアムブロックチェーン上の手数料よりも数桁安いため、0円かそれに近い額となるでしょう。[2] ライデンネットワーク公式, Raiden Overview, 2021年6月18日参照その声質から、数円から数百円単位の支払いを行うマイクロペイメントにも活用できると期待されています。
プライバシーの向上
取引内容がブロックチェーン上に記録されるイーサリアムブロックチェーンでの送金とは異なり、ライデンネットワークでの取引内容は公開されません。ペイメントチャネルを閉じたときの残高が記録されるだけです。そのため、ライデンネットワークを使用することで取引に関するプライバシーが向上します。
ライデンネットワークの問題点
ルーティングが効率的に行われない問題
ライデンネットワークにおいて、直接チャネルと接続されていない人に送金を行うとき、他のチャネルをもつノードを経由して送金を行います。これを「ルーティング」と言いますが、このルーティングがうまく機能しない可能性があります。経由するチャネルにおけるデポジット金額が少ないと、ルートに利用できないためです。
ペイメントチャネルは、デポジットされた金額の範囲内においてのみ取引に利用できます。これはルーティングにおいても同様で、ルート上のチャネルのデポジットが送金金額より
少なければ、ルートに利用できません。
たとえばAさんが、直接チャネルでつながっていないDさんに1000DAIを送りたいとします。このとき「AさんとBさんのチャネル」から「BさんとCさんのチャネル」を通り、「CさんとDさんのチャネル」へルートさせようとするかもしれません。ですが、中継チャネルである「BさんとCさんのチャネル」の残高が100DAIしかなかったら、「BさんとCさんのチャネル」は経由できず、その結果送金できないことになるでしょう。
仮に潤沢な残高のあるほかの経路があれば、送金は行えるでしょう。ただし、それは資金が豊富なチャネルが経由地としてより多く選ばれることにつながり、中央集権化が引き起こされることとなります。
高額の送金には不向き
経由するチャネル内の残高が送金額以上でないとルートに利用できないことにより、送金金額も制限されるでしょう。送金できる金額の範囲は、経由チャネルが保持している残高内となるからです。
よってライデンネットワークは高額送金には不向きと言えるでしょう。高額の送金には、通常のイーサリアムブロックチェーンを利用する方がよさそうです。
ライデンネットワークとシャーディングの違い
「イーサリアム2.0」とは、イーサリアムをよりスケーラブルなものにするための大型アップグレードです。このイーサリアム2.0においては「シャーディング」という技術が実装されます。
シャーディングとはデータベースを水平方向に分割する技術で、ネットワークの負荷を分散させるために用いられます。イーサリアム2.0では、イーサリアムブロックチェーンを64個のシャードチェーンに分割することによりイーサリアムネットワークの負荷が分散され、ネットワークの混雑が解消するとされています。
ネットワークの混雑が解消されることでスムーズに取引が完了するようになったり、取引手数料が現状よりも安くなったりする効果は見込めますが、シャーディングはあくまでイーサリアムネットワークの負荷分散を目的に導入されるものです。つまり、ライデンネットワークが掲げるような高速なトークン転送や、コストの低料金化を実現するものではありません。またシャーディングを実装しても、取引は匿名化されません。
このようにライデンネットワークとシャーディングでは、その導入する目的と効果が異なります。
ライデンネットワークのプロジェクト
μRaiden (マイクロライデン)
μRaidenは、ライデンネットワークとは別のプロジェクトです。共通点としては、瞬時に取引できることと低い取引手数料が挙げられます。ライデンネットワークと違いは、次の3つです。
支払う人と受け取る人の役割が固定される (単方向)
1対多
チャネルを直接接続していない人には送付できない
1つ目は、送金が一方向のみであることです。送金側と受信者側の役割は交換できません。ライデンネットワークでは、双方向の取引が可能です。
2つ目は「1対多」で利用できることです。ライデンネットワークは、他のペイメントチャネルを経由することで多対多の支払いを可能とするネットワークですが、μRaidenはチャネル内で1対多の支払いを実現します。また、チャネル外での取引は提供されず、チャネル内のみの取引に限定されます。
μRaidenは、多数の顧客から少額の料金を徴収したいサービスプロバイダ向けのネットワークといえるでしょう。企業はμRaidenを利用することで、月額の固定料金ではなく、従量課金制でサービスを提供できるようになります。
Alderaan (オルデラン)
Alderaanは、ライデンネットワークにおける2番目のメジャーアップデートです。2020年5月にリリースされ、ノードの作業軽減や利益の享受、オフラインでも利用できるようにするなどの機能改善が行われました。
さらに2021年6月には、3番目のアップデートであるBespin (ベスピン) がリリースされています。Bespinでは、トランスポート層のバグを無くし、安定して運用できることを目標としています。
また、Bespinの後にはライトクライアントがリリースされる予定です。このライトクライアントのリリースによって、ノードの参加者が増える可能性があります。
ライデンネットワークまとめ
ライデンネットワークをはじめとするレイヤー2スケーリングソリューションは、ブロックチェーンの性能を向上させるためには欠かせない技術です。ただしその多くは開発中であり、一般のユーザーが利用できるレベルに普及していくのは、もう少し先の話になるでしょう。